転倒と硬膜下血種の関係

2019/05/13

高齢者の転倒時に生じる危険な症状として急性硬膜下血腫があります。硬膜とは頭蓋内で脳を覆っている膜のことです。この硬膜の内側で脳の表面に出血が起こると、出血した血液が硬膜の直下で脳と硬膜の間に溜り、短時間のうちにゼリー状にかたまって、脳を圧迫します。これが急性硬膜下血腫です。


原因

ほとんどが頭部外傷によって生じます。最も頻度の多いものとして、頭部外傷により脳表に脳挫傷が起こり、その部の血管が損傷されて出血し、短時間で硬膜下に溜まるというものです。その他、脳自体の損傷はあまり強くなく、外力により脳の表面の静脈や、動脈が破綻して出血するものもあるとされています。受傷機転は転落、交通外傷、殴打などがあり、とくに高齢者に多くみられます。日常生活の中で転倒が受傷機転となることが知られています。


症状

強い外傷で起こることが多いために、脳の損傷も強く、受傷直後から意識障害が認められます。なかにはあまり脳自体の損傷はなく、血管の損傷が主体のこともあります。そのような場合には、血腫の増大に伴って徐々に脳が圧迫され、受傷当初にははっきりしなかった意識障害が、徐々に出現してくることもあります。高齢者の日常生活中の転倒による受傷でみられることが多いです。意識障害は次第に悪化し、多くは昏睡レベルに達します。受傷当初は意識障害がない例でも、一旦意識障害が発現すると、その後は急激に悪化することが多く、予後はきわめて不良です。ただ、ごく稀ながら、早期に急性硬膜下血腫が自然消失あるいは縮小することがあります。そのような場合には血腫縮小に伴い意識障害が改善することもあります。


治療

頭部CTなどで急性硬膜下血腫の診断がついた場合、CT上に脳の圧排所見があれば緊急手術が行われます。意識清明かあるいは、意識障害が軽度でかつCT上の脳圧迫所見もないような場合には、その後の状態悪化や、手術適応となる可能性を十分認識したうえで、厳重な経過観察と保存的加療を行うこともあります。また、稀には手術を意図しての準備中、あるいは待機中に意識障害が改善に向かう症例があり、このような症例では血腫が自然消退していくものもありますが、例外的な症例と考えられます。多くの症例では意識障害は進行し、かつ急激な悪化をみることが多く、緊急手術によっても救命さえ困難なことも多々あります。


高齢者にとって転倒は日常生活の身近な問題であり、このような症状を呈することも把握しておく必要があります。転倒を起こした場合は頭部を打っていないか、意識障害はないかなどを確認し、病院受診する必要があります。まずは転倒を起こさない身体作りが重要であり、予防的なリハビリを行っていく必要があります。

ページの上に戻る